色
2026年05月19日
リリースから半世紀近くがたつというのに、古びないアルバムがある。大滝詠一さんの「A LONG VACATION」もその一枚だ。中でも1曲目の「君は天然色」は、いま聴いてもみずみずしい。繰り返される「想い出はモノクローム」のフレーズが印象深い。作詞は「言葉の魔術師」と呼ばれる松本隆さんだ▼明るく弾む曲調の奥には、深い背景があった。アルバム制作中、松本さんは妹を亡くした。深い喪失の中で街を歩くと、目の前の風景が白黒に見えたという。そのエピソードに触れると、「モノクローム」に続く「色を点けてくれ」という一節は、単なる恋の回想ではなく、失われた世界にもう一度色を取り戻したいという祈りのように響く▼まさか現実社会が、モノクロームに近づくとは思わなかった。中東危機に伴うナフサ由来のインク不足で、カルビーはポテトチップスなど一部商品の包装を白黒に切り替えるという。食品メーカーの間では、パッケージの色数を減らしたりする動きも出ている▼高市早苗首相は4月、ナフサの供給不足を巡る報道を「事実誤認」と否定した。だが、現実には食品包装、印刷インク、樹脂製品などで影響が顕在化しつつある。ナフサは食品包装だけの問題ではない。プラスチック、合成樹脂、塗料など、暮らしと産業の隅々に入り込んでいる。建設現場にとっても、資材価格、納期、燃料費に直結する。遠い中東の火種は、海を越え、スーパーの商品棚を白黒にし、やがて現場の見積書にも影を落とす▼政治に求められるのは、楽観的な色付けではなく、足元の白黒を見つめる眼力である。「問題ない」と言うだけなら、だれにでもできる。色が消え、値札が上がり納期が読みにくくなる今、必要なのは、口先の安心ではない。現場に届く具体策であろう。(熊)



