飛び火
2025年11月25日
茶碗のかけらや溶けかけたガラスが、黒くひしゃげたトタンの間から顔をのぞかせている。洗濯機も自転車も、どれも同じく真っ黒な塊になって転がるだけだ。かつては生活の音がしていた細い路地を、いまは風だけが音を立てて通り抜けていく。大分市佐賀関で起きた大規模火災。少なくとも4万8900平方㍍が焼け、住宅約170棟が焼失した。尊い命も失われた▼読者の中にも、ご家族、あるいは縁者の中に被災された方もおられるかもしれない。心からお見舞い申し上げたい。「自然災害」に基づく国の支援を求める県によると、18日の火災発生当夜、風速15㍍を超える強風が吹き荒れ、延焼の大きな要因になったという。それを裏付けるように、風にあおられた火の粉は1・5㌔も離れた蔦島に飛び、山林火災を引き起こした▼不謹慎かもしれぬが、高市早苗首相の国会答弁に端を発した、日中関係の急激な悪化が思い起こされた。「台湾有事は日本の『存立危機事態』になり得る」と断じたことが発端だった。持論であったが、首相としての発言は重みが格段に違った▼これほど明確な答弁もないはずなのに、火種が広がらないうちに「真意を伝える」として外務省高官が中国に赴いた。だが、中国側は「発言を撤回しなければさらなる措置を講じる」と反発を強め、言葉の通り、自国民への訪日自粛措置に続き、日本産水産物の事実上の輸入停止の措置に踏み切った▼中国はさらなる経済的な圧力を加える構えで、日中間は炎上の気配も漂う。防災に強いまちづくりには火の通り道をつくらないことが肝要とされる。国のトップの言葉もまた、同じではないか。どこに飛び火し、どんなリスクが生じるのか見通す必要があろう。さて、どう鎮火させるのか。高市政権にとって、最初の試練の時である。(熊)




