読者の声
2025年11月21日
先日、地元紙の「読者の声」欄に、つましい高齢の庶民を代表するような味わいのある投稿があったので紹介させていただきたい▼「借金はないが貯金もない…」と、何だか夏目漱石の小説みたいな書き出しでその投稿は始まる。「2カ月ごとに届く年金が生活費の全てだ。綱渡りのようだが何とか暮らしている」と続く。80歳代の気ままな男一人暮らし。日々特別な用事もない。日に3度の食事と毎日の入浴を欠かさない。ただぼんやり暮らしている―のだという▼文章は「あまり先のことは考えず〝その日暮らし〟に的を絞っている」と続く。的の絞り方が独特、ユニークである。そして長い間、禁酒・禁煙している生活を「酒、たばこの出費がないことが大きな財産だ」と振り返る。「一口のビールも飲まない。その代わりに水道の水を冷やして飲んでいる。やせ我慢ではなくしみじみとうまい」と言う。最後には「年寄りには無事が何よりだし、不満も不足もない」「時間の流れに身を任せて、幸運を頼りに生きている」と淡々と結んでいる▼潔く、飾らない、達観した投稿だ。若い頃は何をしていた方だろうか。昔は大酒飲みだったのだろうか。奥さんに先立たれて独り静かに暮らしているのだろうか。平凡な日常をサラリと面白く読ませるあたり、〝茶目っ気〟にあふれた老人ではないだろうか…いろんな想像を巡らせてみるが、どれも的外れかもしれない▼「ぼんやり暮らしている」と謙遜しているが、自分をしっかり見つめている御仁だとお見受けした。作家の五木寛之さん(93)が数々のエッセイで人生論を語る中に常々出てくる言葉がある。「人間は生きているだけで価値がある」「ただ生きて行く。それだけで素晴らしい」。新聞の片隅にあった老男性の生き様が妙に印象に残った。(マサ)




