信頼
2025年10月08日
豊後高田市内の「幸運の窓口」に、また行列ができている。サマージャンボで1等5億円と前後賞各1億円の計3人の億万長者がここから誕生した。販売中のハロウィンジャンボにも期待が高まり、券面を握る指先にはささやかな高揚が宿る。秋祭り前の商店街のような浮き立つ空気がまちを包んでいる▼そんな明るさの陰で、同じ市内の郵便局では、元局長が知人の貯金や局の資金あわせて一千数百万円を横領していたことが明らかになった。帳簿と実残の齟齬から発覚し、懲戒解雇と刑事告訴。「借金返済に充てた」との説明は、窓口に通帳を預けてきた地域の信頼を裏切った。郵便・貯金・保険―この国の隅々を結ぶ仕組みは、静かな手続きの積み重ねで成り立つ。小さな綻びが暮らしに長い影を落とす▼日本郵便の不祥事が相次ぐ。法定点呼の不備により軽貨物車の使用停止が全国で相次いだ。不配の一部非公表も重なり、ガバナンスの欠如が露呈している。だが、これはひとごとではない。どんな現場にも、点呼や確認、記録と説明という〝見えない手順〟がある。一枚のチェックリストを省けば、翌日の工程だけでなく、信頼が損なわれる▼「縁の下の力持ちになることを厭うな。人のためによかれと願う心を常に持て」。郵便の父・前島密の言葉だ。信を預かる「公共の窓口」はかくあるべしという教えである。私たちの仕事もまた、派手さとは無縁の「縁の下」でこそ真価が問われる▼宝くじは運の所産だが、確実な配達も、確かな施工も、「人のため」というささやかなプライドに裏打ちされた日々の行いの結果である。確かめたいのは当たり番号ではなく、日々の作法―点呼と記録、説明と誠実な作業手順だ。運は呼べないが、信頼は積み上げられる。それこそ社会のかけがえのない財産であろう。(熊)