事実の熱さ
2025年10月01日
〈炎天をいただいて乞う〉。放浪の俳人、種田山頭火の名句である。まさに照り返しまで背負い込むような厳しい暑さに見舞われた長い夏だった。日田市では35℃以上の猛暑日が62日となり、年間猛暑日数で福岡県太宰府市が昨年記録した国内最多日数に並んだ。酷暑どころではない。灼熱が日常となりつつある現実を、私たちは突きつけられている▼世界中で地球温暖化が加速する。とりわけアジアでは温暖化の進行が世界平均の2倍の速さで進んでいると、気象学者たちは警告している。中国やパキスタンでは洪水、韓国やベトナムでは熱波被害が頻発している。日本でも群馬県伊勢崎市で41・8℃を観測するなど、国内最高気温の記録が塗り替えられた。科学的データは積み重ねられ、地球温暖化の影響であることは疑いようもない▼それにもかかわらず、米国のトランプ大統領は国連総会の場でこう言い放った。「気候変動は史上最大の詐欺である」。個人のジョークではない。世界各国の首脳が並ぶ場で、まじめな顔をして断言したのだ。気候危機を前にして「なかったこと」にしてしまう厚顔無恥に、会場は一時ざわめいたという▼そんな演説に驚いていた矢先、国内から飛び込んできたのが伊勢崎市のお隣、県都・前橋市の女性市長をめぐる醜聞である。既婚職員とラブホテルで繰り返し会っていたことが明らかになりながら「男女の関係はなかった」と強弁し、続投の意欲を示しているという▼超大国意識丸出しで科学的事実を否定するか、恥も外聞もなく社会常識を無視するか。舞台は違うとはいえ、ともに事実の熱さを冷ますことはできまい。気温計はごまかせず、猛暑日は積み上がる。市民の怒りもまた、世論となって突き付けられる。熱波も厚顔も冷房機のようにスイッチ一つでは消せまい。(熊)