大分建設新聞

四方山

何を根拠に信じるか

2025年08月20日
 鹿児島生まれの銘菓「ボンタンアメ」が、品切れになるほどの人気らしい。発端は、SNSで広まった「食べると尿意を抑えられる」という「うわさ」である。泌尿器科医によれば糖分が一時的に尿量を減らす可能性は否定できないというものの、科学的根拠は乏しく「信じるか信じないかはあなた次第」の域を出ない。それでも「映画館でトイレに立ちたくない」といった声が消費を動かす▼一方で、笑い話では済まされない「うわさ」が横行する。1985年の日航ジャンボ機墜落事故を「自衛隊のミサイル誤射による撃墜」とする陰謀論である。国の調査報告書は圧力隔壁の修理ミスを原因と断定しているにもかかわらず、である。もちろん、事故調委員会の報告書でも、爆発物の痕跡も確認されていない。それでも書籍やネット動画を通じて「うわさ」が既成事実のように語られ、信じる人は後を絶たない▼しかも「火炎放射器で証拠を隠滅した」など荒唐無稽な説まで飛び交い、NHKの偽動画まで拡散している。無根拠の情報が繰り返し流布されるうち、真実らしさを帯びてしまう。これこそフェイクニュースの恐ろしさであろう。疑う姿勢と検証を怠れば、社会は虚構に飲み込まれてしまう▼砂糖菓子の「効能」なら害は少ない。だが、未曾有の惨事を巡る偽情報は、犠牲者や遺族の尊厳を踏みにじり、社会の分断を助長する危うさをはらむ。陰謀論は怒りや不信をあおり、民主主義の基盤を静かにむしばむ▼事実より物語を信じる風潮が広がれば、社会の進むべき方向そのものを誤らせかねない。ボンタンアメの甘さは人を和ませもするが、陰謀論の甘言は人を惑わせるだけだ。情報に接する時、私たちに問われているのは「何を信じるか」ではなく、「何を根拠に信じるか」という冷静な眼差しである。(熊)
取材依頼はこちら
フォトkンテスト
事業承継プラザ 切り替え
環境測定センター
arrow_drop_up
TOP