大分建設新聞

四方山

一碗のお茶

2025年08月18日
 茶道裏千家前家元の千玄室さんが亡くなった。元特攻隊員として死と隣り合わせの過酷な青春時代を過ごした。「生きて帰れたら茶の道を通じて人のために働こう」と誓い、戦後は国際茶人として「一碗からピースフルネスを」を掲げ、世界60カ国以上を飛び回った。その一方でしばしば語ったのが、「平和という言葉が嫌いだ」という逆説的な言葉だった▼挑発的にも聞こえるが、毎日新聞8月15日付紙面によると、こういうことだ。争いがあるからこそ「平和」という言葉を使う。本来はそんな言葉を口にしなくてもいい穏やかな世界を実現しなければならない―と。特攻隊員として「死」を強いられた極限の日々を過ごし、生き延びた者だけが語り得る実感である▼戦後80年という節目の年だからであろう。「戦争と平和」について考えさせられた。石破茂首相は広島の平和式典で被爆者の歌を引用し「核兵器なき世界」の実現を力説し、長崎では同じく被爆者の著書を引き「この浦上をして世界最後の原子野たらしめたまえ」と訴えた。これまでになく独自色がこもったあいさつだった▼さらに15日の全国戦没者追悼式では、安倍晋三政権以降、封印されてきた「反省」の文言を13年ぶりに復活させた。戦争を繰り返さぬためには過去の教訓を深く胸に刻まねばならない。その真っ当な認識を式辞に込めた姿勢もまた、節目の年にふさわしいものだった▼だが皮肉なことに「反省」という言葉が今、石破首相に襲いかかる。自民党が大敗した参院選の敗戦責任である。続投の意思を明言している中、党内は石破おろしを視野に入れた総裁選前倒しの議論が始まろうとしている。千玄室さんは一碗のお茶にこめた心が相手との架け橋になると信じた。石破首相はその一椀を見付けられるかどうか、問われている。(熊)
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