大分建設新聞

四方山

静かな警告

2025年07月30日
 県内で熱中症による病院への搬送者は、先月の1カ月間で206人に上った。6月としては前年(87人)の倍以上、過去最多という。患者の発生は炎天下の屋外に限らない。患者の発生場所を見ると、最も多かったのは「住居」で、99人を数えた。工事現場や田畑などの屋外の「仕事場」は27人。「猛暑を避けて屋内へ」という安全法則は崩れた▼これまでになく猛暑の日々が続く。ふと気付けば、何かが足りない。例年なら梅雨明けとともに大合唱を始めるセミの鳴き声である。異変は全国規模で起きているらしい。原因については判然としないが、異常なほど早く始まった猛暑の日々と無縁ではないだろう。思えば、九州北部の梅雨明けは、平年より半月以上も早い6月27日のことだった。過去最速の記録である▼「静けさや岩にしみ入る蝉の声」。芭蕉がこの句を詠んだのは、元禄2年5月27日。西暦では1689年7月13日に当たる。芭蕉が耳にしたセミの種類を巡って、大正時代の俳壇がアブラゼミ、ニイニイゼミの2派に分かれて大論争が起きた。芭蕉と同じ日に現地調査が行われ、まだこの時期、アブラゼミが鳴いていないことが確認され、論争に決着がついた▼何とも風雅な話ではあるが、セミの鳴き声を聞かない令和の時代、芭蕉は生まれない。「すずめの子そこのけそこのけお馬が通る」と詠んだ一茶も同様だ。最近、町中で姿を見なくなったスズメ。こちらも年3・6%の割合で減っている。地球環境の変化の影響であろう▼温暖化は急速に進み、生態系は蝕まれている。セミとスズメが消えかけた夏。私たちはその「静かな警告」に耳を澄ませているだろうか。人間だけが無事でいられるわけでない。熱中症で倒れるのは、日常の風景になりつつある。季節の足音がどこか歪んで聞こえる。(熊)
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