予言
2025年07月08日
「7月5日に大災難が起きる」─そんな予言が世間の一部をざわつかせていたその日、住民の島外避難が始まった鹿児島県・悪石島がまたもやぐらりと揺れた。震度5強。気象庁での記者会見では、予言との関連を問う質問も飛び出した。担当官は「科学的根拠はなく、全くの偶然」と言い切ったが、タイミングの妙にネットなどは「的中した」などとざわついた▼以前も本欄で取り上げたが、この予言、『私が見た未来』という漫画本の著者が見たという「予知夢」が発端。巨大津波が列島を襲う─そんな描写が拡散。香港では旅行控えが広がり、日本路線の減便や欠航も相次いだ。騒ぎの拡大に、作者自身が驚いたのか、近著では「7月5日に何かが起きるというわけではない」と軌道修正。何やらそのこと自体が全てを物語っているよう▼一方この日、政治の世界でも「予言」が飛び交った。各紙が一斉に参院選序盤情勢を報道。主要各紙は「与党の過半数獲得は微妙」「1人区で自民苦戦」と伝え、選挙戦の風向きを占う。世論調査に基づく〝数字の予言〟である▼ただ、選挙もまた「未来の話」である。1日で情勢が変わることもあるし、投票箱の蓋を開けるまで結果は誰にもわからない。予言に一喜一憂する人々、分析に身を委ねる政党─科学か直感か、根拠か空気か。結局のところ「信じるもの」が人を動かす。政党は乱立し、諸派が入り乱れる群雄割拠の時代である▼加えて〝発信力〟ばかりが注目を集め、言葉は自然と過激になり、それが有権者、つまり国民の分断を加速させるようにも見える。私たち有権者にも冷静なまなざしが求められている。地震も政治も揺れる。それでも未来は予言ではなく、一票で選び取るものであろう。その一票こそが災厄にあらがい、揺れる社会を支える礎となる。(熊)