大分建設新聞

四方山

戻った観音像

2025年05月23日
 長い旅だった。盗難に遭い、海を越えて韓国に渡った仏像が、ようやく故郷・長崎県対馬の観音寺に戻ってきた。盗まれたのは2012年のことだから13年ぶりの帰郷である。韓国で押収されながらも、同地瑞山市の浮石寺が「元は倭寇(日本の海賊)によって略奪されたものだ」と主張。10年以上にわたる法廷闘争の末に、返還が実現した▼仏像は14世紀に浮石寺でつくられたものとされる。だが、仏像を日本が奪ったという証拠はない。事実としてあるのは、長い時代に渡って、対馬の観音寺の本尊としてまつられてきたことだ。そうした背景を考えれば、浮石寺が返還を拒んだ事情も理解できなくもない。だが、韓国の裁判所は観音寺の所有権を認め、浮石寺もその判断に応じた▼それを思うと、単なる「文化財の返還」に止まらない、大きな意味を持つ。静かに合掌する「観世音菩薩坐像」の姿は、国境を越えて、両国間に横たわる歴史問題を超え、日本と韓国の人たちが手をつなごうとする祈りのような願いが込められているようにも感じられる▼だが、国家間の枠組みで見ると、暗雲が立ち込める。韓国で始まった大統領選挙である。長年積み重なった確執のような日韓の関係性が影を落とす。歴史認識、安全保障、通商関係…。誰が勝っても、日韓関係は試練を避けられそうもない。韓国では「過去に奪われたものが今なお戻っていない」という感情がくすぶり続けているという▼6月3日、韓国では新たなリーダーが誕生する。誰が政権を担おうとも、日韓の間に横たわる歴史の影は、一朝一夕で消えるものではない。それぞれが「正義」や「正当性」を主張するほど、言葉はぶつかり合い、道はまた閉ざされる。安住の場所で静かに合掌する観音像は、声なき声で何ごとかを語り掛けているようだ。(熊)
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