予言
2025年05月22日
『私が見た未来』という漫画本をご存じだろうか。初版は1999年。作者のたつき諒さんが、自身が見た予知夢をもとに描いた作品で、2011年の東日本大震災を「予言」したとされ、一部で話題になった。21年に新版が発行され、そこには「本当の大災難は2025年7月にやってくる」と明記。あと2カ月足らずである▼中国語版も出版され、香港ではたいへんな反響のようだ。この〝予言漫画〟を理由に、日本への旅行を見送る人が続出。訪日外国人は全体として増えている中、3月の集計によると、香港からの訪日客は前年同月に比べて1割も減少した。観光業界からは「インバウンドにも影響を与えかねない」と懸念の声が上がっている、とも報じられた▼だが、未来の予測などつかないのが社会の常なのではないか。かつて「世界の日産」を標榜した日産自動車は、創業の地である神奈川県内の2工場を閉鎖する方針を固めた。シャープもまた、「世界の亀山モデル」として名をはせた三重県内の亀山第2工場を、台湾企業に売却すると明らかにした▼当の企業にとってのみならず、国内製造業の誇りでもあった施設が、いま次々と姿を消していく。つい十年ほど前まで、経営は盤石と評されたはずである。だが、そんな言葉をあざ笑うかのように、社会は移ろい続けた。技術革新、グローバル競争、消費者の価値観の変化……。経営陣は未来を読み誤ったのか。そうではあるまい。読めなかったのだ▼未来は「予言」などで読み取れるものではない。未来につながる「今」という時代から、常に私たちは問いかけられている。「不確実性の時代」が続く中、その問いにどう応じるかが、企業も、社会も問われているのだ。確かなのは、答えは「予知夢」などには出てこない、ということだけである。(熊)