大分建設新聞

四方山

勝負師の誇り

2025年05月13日
 創建1300年の節目を迎えた宇佐市の宇佐神宮。県指定有形文化財の西大門が、朱色も鮮やかに蘇った。切り妻屋根の堂々たる四脚門は1743年の造営。老朽化と白アリの侵食にさらされていたことから、4年に及ぶ大規模な改修工事を経て、建立当初の荘厳な姿を取り戻した▼10年に1度訪れる天皇の勅使をお迎えする特別な門であり、例祭などの重要な行事を除いて、ふだんは固く閉ざされている。戦前は伊勢神宮に次ぐ最上位の官幣大社に列した宇佐神宮の「格」の高さを象徴する門でもある。将棋界最高峰の戦いに臨む2人の棋士はこの門をくぐるのだろうか。藤井聡太名人と、挑戦者・永瀬拓矢九段のことである▼名人戦第4局が17、18日の2日間に渡って、境内にある「勅使斎館」で行われる。快進撃を続け3連覇に大手をかける藤井名人に、永瀬九段がどう挑むのか。直近の王将戦も同じカードだったことを思えば、まさに令和の将棋界を代表する2人による注目の対局である。盤上以外も話題に事欠かない。例えば「勝負めし」もその一つ▼そしてもう一つ。棋士が開催地に寄せる揮毫である。藤井名人は「飛翔」「大志」などとしたためてきた。一方、永瀬九段はこのところ一貫して「聡」の一文字を書いてきた。挑む相手の名から、あえて一字を抜き取る。真意を問われても当の永瀬九段は「特に意味はない」とけむに巻くが、意味の定まらぬ一筆に、勝負師の誇りが宿っているよう▼永瀬九段は32歳。藤井名人より10歳年長であり、礼節を重んじる武人肌の棋士である。つまらぬ挑発などではあるまい。「天才」と称される年下のライバルに寄せる静かな敬意、同時に「打倒」への覚悟が伝わってくる。たかが一文字だが、盤上の「勝敗」だけでは推し量れない「勝負」の妙味が垣間見える。(熊)
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