人間だもの
2025年03月14日
「人間だもの」の詩で知られる詩人であり、書家でもあった相田みつをさんの言葉にこんなのがある。「他人のものさし 自分のものさし それぞれ寸法がちがうんだな」。他者と比べることの愚を静かに教えてくれる。なるほど、他人との比較が、嫉妬やらの厄介な感情の始まりである▼でも、このニュースに接した時は「うらやましい」という言葉がこぼれた。中津市豊田町の宝くじ売り場から1等の高額当選者が誕生したという。賞金は4億5310万円。どんな人がこの幸運を手にしたのだろうか。つい想像を巡らせてしまう。けれども高額当選者の全てが幸せになっているのかといえば、どうもそうではないらしい▼高額当選者に配布されている特別な冊子がある。宝くじの発行業務を担っているみずほ銀行が作成したもので、タイトルは「『その日』から読む本」。副題に「突然の幸運に戸惑わないために」とあり、「すぐにやっておきたいこと、やってはいけないこと」「落ち着いてから考えること」「当面の使いみちが決まったら考えること」の3部構成▼内容は厳秘というが、浪費は慎むように、現在の生活を変えないように、といったことが繰り返し説かれているという。裏を返せば、突然の幸運に身持ちを崩してしまう当選者が多いということだ。「パーキンソンの法則」をご存じだろうか。収入が拡大すると支出もそれに準じて増大する、という法則だ▼それに、収入が減少しても、消費は減らないという「ラチェットの法則」が加わり、高額当選者は得てして身持ちを崩してしまいがちとの指摘もある。「幸運」が「幸福」に結びつくわけではないのだろう。あれこれ思いを巡らせるうちに「うらやましい」という感情は消えたが、ここまで探求したことに自己嫌悪。「だって人間だもの」。(熊)