握手と外交
2025年02月12日
先の大戦で焦土と化した国土。立ち上がろうとする人々を励まそうと、昭和天皇は沖縄県を除く全国各地を訪れ国民との交流を図った。「ご巡幸」である。とはいえ、戦時中まで「神」と崇められた天皇である。宮中から飛び出した天皇も、迎える側の民衆も戸惑ったようだ▼栃木県を訪れた時だった。天皇が人々からの歓呼に応えていると、一人の労働者が飛び出し握手を求めた。ヒヤリとする場面だが、天皇はいなすようにこう言ったという。「日本らしい礼儀がありますから、お互いにお辞儀しましょう」。確かに、日本人にとって一般的なあいさつのしぐさは、お辞儀である。この習慣は2000年近い歴史があるらしい▼日本に握手の文化が伝わったのは、幕末の黒船来航。ビジネスシーンは別として、握手が一般的になることはなく、いまだにあいさつはお辞儀が主流だ。握手は立ったまま相手の目を見ながらするのが肝なのに対し、お辞儀は目をそらすところに美意識がある。成り立ちから違うだけに、なかなか定着しづらいのだろう▼石破茂首相も苦手なようで、就任直後の国際会議で座ったまま握手する姿などが批判された。トランプ大統領との日米首脳会談に臨むに当たっては、外務省から特訓を受けた。その甲斐あって、握手は完璧だったよう。ところが、後がいただけない。「神に選ばれた」などと、トランプ氏をヨイショしまくり▼関税の引き上げなど「脅迫外交」で、国際社会から批判を浴びているのに、ここまで持ち上げて…と思ってしまう。そのうえ「対米投資1兆㌦(151兆円)」のおみやげ付きである。持論の「対等な日米関係」はどこに行ってしまったのか。それなのに、「シゲル」とファーストネームで呼ばれることはなかった。もしかして低い支持率を見透かされていたのか。(熊)