独裁者
2025年01月31日
「神の手」とたたえられた心臓外科医がいた。榊原仟(1910~79)。外科手術の模様がラジオ中継されるほど、その力量はつとに知られ、彼が教授を務めた東京女子医大病院にはそれこそ世界中から救いを求める患者が押し寄せた。だが今となっては昔の話。現在、名門病院の面影はない。それどころか大学本体は「腐蝕の塔」になっていたようだ▼東京女子医大を舞台にした巨額背任事件。警視庁に逮捕された女性元理事長は、新校舎発注事業に絡んで1億円を超える損害を大学に与え、うち数千万円を自身に環流させていたとされる。一方で、強権を振るい反対者は追放し、5億円かけて理事長室を改修するなどやりたい放題だったらしい▼読売新聞1月15日付紙面によると、自身も1億円分のブランド服をタグ付きのまま保管していたほか、周囲にも高価な物品をばらまいていたという。「お金があれば人は動く」が持論だったとも報じられた。結果、周りはイエスマンばかりとなり、さながら「女王国」を築いた。だが上には上がいる。米国のトランプ王国だ▼大統領就任演説で「領土を拡大する」と宣言し、パナマ運河の領有を主張するなど言いたい放題。同時に2021年の連邦議会議事堂襲撃事件を巡って、事件に加わった自身の支持者ら1500人に恩赦を発令した。法律など知ったことではない、という態度である。まさに法治国家であることを放棄したような暴挙と言えよう▼閣僚など主要ポストには、忠実な腹心、身内などを就ける考えを示し、あたかも「帝国」を築こうとする姿勢を鮮明にしている。冒頭の榊原は常識を打ち破る大胆な手術技法を採り入れた。批判も浴びたが「鬼手仏心だ」と応じ、信じる道を歩んだ。元理事長、トランプ氏ともに、他者を慈しむ仏心は見られない。(熊)