大分建設新聞

四方山

猫の必読書

2024年09月26日
 生き物のいる暮らしは安らぎをもたらしてくれるが、いずれ別れの時を迎える事態は避けられない。私の場合は猫である。いったい何度経験しただろうか。それは突然訪れる▼小学生の頃、しばらく猫を見ないと思ったら、私の部屋の床下で死んでいるのが見つかった。また、別の子猫は家の玄関前でトラックにはねられて死んだ。ペットの死が幼い心のトラウマになったり、二度と動物は飼わないという話を聞く。一方で、うちの猫は〇代目というケースも▼イギリスの古い言葉に「猫に九生あり」や「好奇心は猫を殺す」というのがある。二つをつなげると、猫は九つの命を持つほど簡単に死なないが、生まれつきの好奇心が原因で死ぬこともある、といった意味だろう。猫の性質をよく表していると思う▼そこで思い出すのが『100万回生きた猫』(作・絵:佐野洋子)という絵本。1977年に出版され、2022年の時点で累計発行部数244万部という息の長いベストセラーだ。ストーリーは主人公の猫が何度死んでも生き返るので、死を恐れることも悲しみも知らなかったが、最後に大切なことを見つける…。「100万回死んだ猫」と勘違いしている人も多いくらい死のイメージが強いが大人のファンも多く、特に猫好きなら必読書かも▼詩人の長田弘は著書『読書からはじまる』の「子どもの本のちから」という章の中で、「子どもの本というのは、(中略)大人になるとともに自分たちがいつか失った疑いや希望といったものがそこに見いだせるような、あるいは確かめられるような、常にそういう入り口を持つ本として捉えかえすほうがずっといいと思う」と書いている。絵本は子どもだけのものではない。大人が読んでも楽しめるが、絵本も猫も心を開かなければ近付けない。(コデ)
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