大分建設新聞

四方山

恥を知らぬ者は強し

2024年09月05日
 来年で先の戦争から80年を迎える。失われた人命はおよそ310万人とされ、うち約240万人が陸海軍の将兵、約70万人は本土空襲、原爆などによる一般市民の犠牲者である。一人一人に人生があったことを思うと、その重さに粛然となる▼興味深い統計があることを最近知った。捕虜の人数である。米英ソ連などの連合国軍を相手に戦ったドイツ軍では約94万人が捕虜になり、イタリア軍でも約49万人が捕らわれた。同じく枢軸側で戦った日本軍の捕虜は約3万人。比較にならないほど少ない。敵に捕まるのは恥辱だと徹底して教え込まれた影響だ。それを象徴するのが陸軍の「戦陣訓」である▼「恥を知る者は強し。(略)生きて虜囚のはずかしめを受けず、死して罪禍の汚名を残すことなかれ」。要は、捕虜になるくらいならば迷わず自決せよ、という一文が将兵への呪縛となって、降伏よりも「死」を選ばせた。罪づくりな一文である。冒頭の「恥を知る者は強し」は、「廉恥心」をかみ砕いた表現であり、武士道の徳目である。道徳的な言葉も使い方を誤れば悲劇をもたらす好例である▼だが、真実は「恥を知らぬ者は強し」ではないかとも思えてくる。パワハラ問題で全国から注目されている兵庫県の斎藤元彦知事のことだ。県議会百条委員会での証人尋問では「もっといい知事になる」と、引き続き県政運営を担っていく姿勢を崩さなかった。県職員、県民の信頼が失われているにもかかわらず、である▼個々のパワハラよりも、はるかに問題なのは知事の周辺で2人の幹部職員が自死している点だが、意に介していないのだろう。実は、戦陣訓を示達した東条英機元首相は拳銃自殺に失敗し、戦犯という不名誉な捕虜になった。自裁を試みたのは、敗戦から日時がたってのことだ。厚顔無恥は強い。(熊)
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