裏金問題は何処へ
2024年08月29日
彫りの深い顔立ちに、透き通ったブルーの目。時折見せる上目遣いの表情がミステリアスな陰りを漂わせていた。二枚目スターのフランスの俳優、アラン・ドロンさんが88歳で旅立った。代表作と言えば1960年公開のルネ・クレマン監督の「太陽がいっぱい」であろう▼富豪の友人を殺害し、財産を奪い取ろうと完全犯罪をもくろむ、貧しくも野心家の青年を演じた。貧困の中で生まれ育ち、もがきながらスターの座をつかんだドロン自身に重なる。フランス語の原題を直訳すると「太陽がさんさん」になるという。それを「太陽がいっぱい」という邦題を付けたのは、翻訳者の非凡な才能であろう▼こちらはさながら「候補者がいっぱい」である。岸田文雄首相の退陣表明で始まった次の自民党総裁選び。9月の総裁選には11人の名前が候補者として挙がっている。出馬には同党国会議員20人の推薦人が必要であることから11人全員が実際に出馬するかどうかは微妙だが、かつてない乱戦になりそう▼そのあおりだろうか、自民党が作成した宣伝ポスターもにぎやかだ。あしらわれたのは歴代総裁のポーズ写真で、初代鳩山一郎氏から岸田氏までの26人に及ぶ。興味深いのがその扱いだ。「総裁在任期間を基本に、現在の認知度を考慮して決めた」(党広報本部)というが結構露骨だ▼ポスター中央は、歴代最長の安倍晋三氏。次いで目立つのが「自民党をぶっ壊す」と言ってのけた小泉純一郎氏である。息子の進次郎氏は総裁選に名乗りを上げている。同じく出馬に前向きとされる河野太郎氏の父洋平氏は、泣きたくなるほど小さい。党内抗争の火種にならなければいいがと、いらぬ心配もしてしまう。そして、キャッチコピーは「時代は『誰』を求めるか?」▼早くも裏金問題など忘れてしまったのだろう。(熊)