大分建設新聞

四方山

カスハラ

2024年07月19日
 奈良出身の知人と話していた折、お国自慢にいささか閉口して「まあ、奈良にうまいものなしだからね」と思わず口走ってしまった。逆に「根も葉もないことを信じているのか」とねじ込まれ、「そうめん、柿の葉寿司…」と、またぞろお国自慢を聞かされる羽目になった▼足があるわけでないのに、一人歩きしては誤解を振りまく厄介なものがある。「言葉」である。格言のような「奈良にうまいものなし」は、元を正すと志賀直哉が随筆で「(奈良は)食ひものはうまい物のない所だ」と書いた一文だったという。文豪の主観がいつの間にか普遍的事実かのように広まってしまったらしい▼このところ社会問題になっているカスタマーハラスメント(カスハラ)。客が店員らに無理難題を押しつける背景には「お客さまは神様」という日本独特の思考が社会に定着しているためとも指摘される。知られているように、この言葉は昭和の歌手、三波春夫が決めゼリフとして使ったのが始まり。1961年のことだ▼三波の娘が運営するオフィシャルサイトによると「歌う時、私はあたかも神前で祈るときのように雑念を払っている」という三波の発言を引きながら、舞台での心構えだったと訴えている。カスハラの頻発に心を痛め、父の意図を正確に伝えたいという、娘としての心情がにじむ▼大分銀行がカスハラに対しては警察への通報など毅然とした態度で対応すると発表した。わざわざアナウンスする当たり、相当深刻な状況なのだろう。意に沿わない対応に土下座を求めるなどのカスハラ案件が昨年だけで30件あったという。三波は生前、自身の言葉が注目を集める理由について「人間尊重の心が薄れた」ためと自著に綴っている。鋭い洞察だと思う。事態はますます深刻度を増しているのであろう。(熊)
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