大分建設新聞

四方山

痩せ我慢

2024年07月17日
 1万円札の顔が本県ゆかりの福沢諭吉から渋沢栄一に交代して2週間ほどが経過する。先日、ようやく新1万円札を手にした。早速新旧2枚の紙幣を並べてみた。幕末の動乱から、日本が近代国家に転換する激動の同時代を駆け抜けた2人である。肖像を見比べて、洋装の栄一に対し、諭吉が着物姿であることに改めて気付かされた▼西洋文明を積極的に紹介することで、その名を歴史に刻んだ諭吉が日本伝統の和服姿というのは、よくよく考えれば奇妙なことだ。諭吉自身、洋装を嫌ったわけではない。ただ、自身の写真として使う場合は、56歳の時に撮った和服姿の一枚を指定していたという。紙幣の肖像もその写真を元に描かれた▼最晩年の著作に『痩我慢の説』がある。例に挙げるのがドイツ、フランスといった大国に挟まれたベルギーなどの小国。いっそ大国に合併された方が安楽なのに、痩せ我慢を張って独立の気概を失っていないから立派なのである、と説く。諭吉が生きた明治半ばの日本はどうだったか。恥を厭う伝統的な精神は否定され「利あればそちらに転ぶ」欧米一辺倒の風潮が広がっていた▼我慢ならなかった諭吉が和装の写真にこだわった理由もこの辺りにあるのだろう。「独立自尊」を唱えた諭吉だが、彼が考えた「独立」とはいたってシンプルで「人から物をもらわない」「他人の厄介にならない」の二つである。要は「痩せ我慢」であろう▼翻って今の日本はどうか。自民党を揺るがし続ける裏金問題の核心である政治献金の在り方についても、岸田文雄首相は「政治にはコストがかかる」と開き直っているかのような発言に終始している。そこには恥を恥と思う価値観はない。むろん、痩せ我慢の精神も。1万円札としては40年振りの肖像の交代だが早すぎたのかもしれない。(熊)
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