大分建設新聞

四方山

治乱の足音

2024年07月02日
 「ミスター検察」と呼ばれた検察官がいた。検事総長を務めた伊藤栄樹(1925~88年)である。検察官、検察指揮官としては、吉田茂内閣が倒れるきっかけとなった造船疑獄事件(54年)にはじまって、田中角栄元首相が逮捕されたロッキード事件(76年)などの捜査に関わった▼「巨悪を眠らせるな、被害者とともに泣け、国民に嘘をつくな」。85年に検事総長に就任した際の訓示である。国民的な人気は絶大だった。果たして、いまの検察の状況を見れば、泉下のミスター検察は何と言うだろうか。大阪地検トップを務めた弁護士の男がまさしく検事正当時、酔った部下に性的暴行を行ったとして、大阪高検に逮捕された。前代未聞の醜聞である▼当の高検の発表は、犯罪の内容については口をつぐみ、犯行現場についても「日本国内」と人を食ったコメントに終始したという。この元検事、現役時代は森友事件を手掛けた。財務官僚の犯罪が暴かれると思いきや、全員不起訴となった。同じ官僚同士、身内には甘いのだろう▼時を同じくして、当時の安倍晋三政権が東京高検検事長の定年延長に伴い、法解釈の変更を閣議決定したことに、大阪地裁は重大な判断を示した。解釈変更の経緯に関する文書を不開示とした国を、学者が訴えた訴訟で、大阪地裁は安倍政権の不当な介入を疑い、不開示決定を取り消した。憶測は禁物だが、森友事件も安倍政権下での疑惑だった▼不祥事が続く鹿児島県警には、警察庁から監察官が派遣される事態になっている。「治乱興亡は人にあり」とも言う。規範となるべき人たちの行いが悪ければ国が乱れる、という意である。56人が立候補した東京知事選。一部候補者は政見放送でもやりたい放題で、無政府状態のような有り様と聞く。「治乱」の足音でなければいいが。(熊)
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