大分建設新聞

四方山

両輪

2024年06月27日
 長年親しんでいたものが変わるというのは、一抹の寂しさを覚えるものだ。ましてや本県ゆかりの人ともなれば、なおさらである。40年にわたって1万円札の「顔」であった福沢諭吉から、実業家の渋沢栄一に変わる。いま、諭吉が幼年期を過ごした中津市では「不滅の福沢プロジェクト」が進められている。功績を後世に伝え、地域おこしにつなげる取り組みという▼諭吉は慶應義塾を創設した教育者であり、啓蒙家。一方の栄一は生涯に500を超える企業の創設に関わった実業家である。2人とも幕末から明治維新を駆け抜け近代日本の礎を築いた。諭吉の説く西洋思想が人々の心を封建制度の呪縛から解き放つ役割を果たしたことを思えば、栄一はいまに続く会社制度をはじめとする日本経済の土台づくりを手掛けた▼両輪の関係にあったのだろう。栄一は単なる資本家ではなかった。1873年に日本で最初の銀行「国立第一銀行」を創設するが、その際の株主募集に当たってこんな考えを表明している。「一滴一滴のしずくが集まれば大河となり新しい時代が切り開ける」▼栄一の玄孫(孫の孫)で、コモンズ投信会長の渋沢健氏によると、栄一がイメージした滴とは、金銭的な株主資本に加え、共通の夢を抱く同志、つまり人的資本も入っているという。資本主義ではなく「合本主義」と呼んだゆえんである。人を重んじたところがミソなのだろう▼栄一は「道徳経済合一」を唱えた。その思想を端的に示したのが代表著書『論語と算盤』の冒頭部分に掲げられた次の一節だ。「仁義道徳、正しい富でなければ、その富は完全に永続することができぬ」。青臭い書生論にも聞こえるが、近年叫ばれるSDGsなど環境に配慮した企業活動も、経済と道徳の両立であろう。古びない新しさがある。(熊)
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