大分建設新聞

四方山

多くの目隠し

2024年06月04日
 パリ近郊のベルサイユ宮殿。贅の限りを尽くした建物と、手入れの行き届いた広大な庭園は、一度は訪れたい代表的な観光名所として知られる。絶対君主として君臨し「太陽王」と呼ばれたルイ14世が手掛けた。今では誰でも見学できるが往時は違った。周辺の農民を追い出し森林に変えて宮殿を覆い隠した。美しい宮殿の景観も独り占めしようとしたのだろう▼日本を代表する景勝地の富士山。雄大な山体を写せる絶好スポットとして知られた山梨県富士河口湖町内のコンビニの周囲が景色を隠すように長大な黒幕で覆われた。長さ約20㍍、高さ約2・5㍍というから半端な幕ではない。化学繊維製の農業用遮光幕という。だが、絶景を独占するためではなく、観光客のマナーの悪さに頭を抱えた町が苦肉の策として設置した▼こちらの方は、目隠しといっても森林や遮光幕ではない。もっと巧妙だ。教職員による性犯罪の公判について、一般傍聴の目から覆い隠す目的で、横浜市教育委員会がとった手段が教職員の大量動員だった。傍聴席48席のところに、毎回50人以上の教職員が並び、一般傍聴をボイコットしていた▼同市教委は「被害児童の人権を守るため」と強弁しているが、公判で別の余罪がさらされることを恐れ、それを隠ぺいしようとしたという見方の方がどう見ても自然である。憲法で保障されている「裁判公開」の原則を踏みにじった上、動員した教職員には出張扱いの旅費まで支払われていたという▼鹿児島県警では生活安全部長の要職に就いていた元幹部が情報漏洩容疑で逮捕されたが、詳しい内容は一切明かされていない。一般人であればこうはいかない。見えない幕が真相を覆う。ちなみに富士山を隠す遮光幕は早くも穴が開けられたという。隠しても幕引きというわけにはいかない。(熊)
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