日米の不安定
2024年04月18日
新年度のスタートに当たり、国会で新社会人に贈る言葉を問われた岸田文雄首相はこんな答弁をした。「人生で無駄なものは何もない。どんな苦難であっても必ずやそれぞれの人生において意味がある」。自民党は裏金事件に揺れ、内閣支持率は超低空飛行を続ける。ひょっとしたら自身に向けての叱咤だったかもしれない▼久しぶりに岸田首相の表情から高揚感が伺えた。米国への公式訪問。それも日本の首相としては2015年の安倍晋三元首相以来、9年ぶりの国賓待遇である。バイデン米大統領との首脳会談では「ジョー」「フミオ」と呼び合った。連邦議会では得意の英語で演説をぶち、「外交の岸田」をアピールした。何とか政権浮揚につなげたいところだろう▼晩餐会でもアマゾン、アップルといった巨大企業の経営者が招かれるなど、米側の厚遇ぶりが際立った。だが、外交は「ギブ・アンド・テイク」が原則である。日本側の贈り物もなかなかのもの。最も注目されるのは、自衛隊と在日米軍の「指揮・統制」の連携強化である▼東アジア情勢が緊迫する中、抑止力の構築は喫緊の課題である。だが、在日米軍の司令部は遠く離れたハワイである。「統制」の名の下に遠隔指示で、自衛隊が米軍の傭兵のように扱われる懸念はないのだろうか。何しろオスプレイが墜落しても、日本政府は米側に何も言えないのが現状である▼岸田首相は日米同盟が「前例のない高みに到達した」と自賛した。しかし11月の米大統領選で、米国第一主義のトランプ前大統領が勝利すれば、同盟関係は不透明感を増すだろう。当の岸田首相だって政権基盤は不安定である。晩餐会には「サウンド・オブ・サイレンス」の大ヒットで知られる歌手のポール・サイモン氏が招かれた。映画「卒業」の主題歌。意味深である。(熊)