末路
2024年01月30日
19世紀のフランスを舞台に、ジャン・バルジャンという不運な星の下に生まれた男の生涯を描いたビクトル・ユーゴ作の長編小説『レ・ミゼラブル』。たった一個のパンを盗んだ罪で19年もの間、監獄に閉じ込められた男に待ち受ける数奇な運命。小説を読んだことはなくても、映画やミュージカルに翻案されており、ご覧になった方もいるだろう▼最大のヤマ場は、息を引き取る直前に、わが子同然の娘コゼットに、過去の自身の罪を告白する手紙を渡す場面だ。犯した罪を懺悔することで魂が救われるという、キリスト教の教えを反映しているが、信徒ならずとも心が揺さぶられるのはどうしたことか。人間生きている限り、どこかで恥ずべき十字架を背負いがちだ。そんな心象を重ねてしまうせいかもしれない▼49年といえば、ジャン・バルジャンのおよそ2・5倍の期間である。1974・75年に起きた連続企業爆破事件に関与したとして指名手配中の容疑者を名乗る男が神奈川県内の病院に入院していたことが分かった。捜査の主体は、日本有数の情報機関と評される警視庁公安部である▼さては、情報分析で所在を突き止めたかと思いきや、末期がんを患っている本人からの申告だった。半世紀にわたる偽名生活。「最期は本名で迎えたい」と話し、ほどなく息を引き取った。罪を悔い、自分の名前を取り戻して生涯を閉じたかったのか。それにしても無差別の爆破事件である。犯した罪は大きい▼裏金事件で議員辞職した谷川弥一・前衆院議員の告白にも驚かされた。「力を付けるために金を集めた。大臣並の金を集めてやろうと思った」。まるで大臣の椅子は集金力で決まるかのような口ぶりだった。勇気が必要だったろう。秘書のせいにするのではなく、谷川氏を見習うべき議員はほかにもいそうだ。(熊)