大分建設新聞

四方山

時間外労働

2024年01月25日
 男と女の切々とした恋心を魅惑のハスキーボイスで歌い上げてきた八代亜紀さんが旅立った。享年73。お隣の熊本県の出身。1979年の『舟唄』、翌年の『雨の慕情』で不動の地位を築いた。若い世代でも、連れ出された酒場で先輩の「しみじみ飲めば~」とうなるサビに声を合わせたことがあるのではなかろうか▼作詞を手掛けた阿久悠の言葉の力もあるだろうが、心に響く八代さんの歌唱があればこそ、歌い継がれる名曲になった。71年のデビュー。ヒットが出るまでの苦闘の時代を支えていたのが、八代さんがパーソナリティーを務める深夜のラジオ番組に耳を傾けていたトラックドライバーたちだ。元ドライバーは「こぶしの効いた歌声が、激しい労働を励ますエールに響いた」と話してくれた▼八代さんも終生そのことを忘れず恩義に感じていた。父親もまた、トラックドライバーで幼少のころはよく助手席に座り、苦労を間近で見ていたという。そんなトラックドライバーたちの生活が岐路に立たされている。今年4月からの働き方改革の一環で、労働環境が大きく変わるからだ▼残業時間は年960時間に制限され、拘束時間も1日最大16時間から15時間に削減される。結構ずくめに聞こえるが、その分収入が減るわけで、ドライバーにとっては死活問題である。運送業にとどまらない。九州からの首都圏への物流もこれまでよりも1日余分に時間がかかることになり、影響は国民生活に及ぶ▼政府はデジタルトランスフォーメーションの推進でしのげるとしているが、中小の事業所にその体力があるだろうか。例えて言えば物流は、経済活動における血液の循環である。それこそ経済活動に血栓を起こすような事態を招くのではあるまいか。「しみじみ」考えた上での政策なのか、はなはだ疑問だ。(熊)
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