大分建設新聞

四方山

キックバック

2023年12月25日
 「朝刊で俺は無事かと確かめる」。朝日新聞12月12日号に掲載された川柳である。思わず吹き出しそうになるが、政治家諸氏のキックバック騒ぎを眺めていると、笑おうとする唇がため息を漏らす▼そこで、つまらない裏金づくりの話には背を向けて、冒頭の皮肉に満ちた新聞辞令で、ふと思い出したことがある。王や長嶋が活躍した頃のプロ野球の世界で「報知辞令」と呼ばれる人事異動があった。スポーツ紙の報知新聞は読売巨人軍の機関紙として有名。シーズンが終わり、選手たちの成績評価が取り沙汰される頃になると、当時はダントツの人気を誇っていた巨人の選手たちに世間の目は集まった▼そんなある日の報知の朝刊に「〇〇選手、他球団に移籍か」みたいな記事が載る。選手本人はもちろん何も知らない。新聞を読んで「朝刊で俺の移籍を確かめる」。現代の真偽入り乱れた情報洪水の時代と違い、もう少しゆったりした世の中だったから、ファンも鷹揚に受け止めていた▼ゆったり時代の話をもう一つ。1968年のメキシコオリンピックで日本サッカーは銅メダルを獲得。得点王には釜本邦成選手が選ばれた。その彼のもとに外国人がやって来て書類を広げ「ここにサインしろ」と迫った。「もちろん断ったけど南米のプロチームの担当者だった。すごい契約金だったけどね」と彼は週刊誌で初めて打ち明けた。提示金額は今の数十億円。マスコミは知らず報道はなし。今より時計ははるかにゆっくり回っていた▼冒頭のやるせない話に戻る。年の瀬の永田町は火の車、てんやわんやの大騒ぎ。首相火だるま、閣僚首すげ替えの活字が飛び跳ねる日々。もう一度朝日川柳(13日号)を読む。「知れ渡り引けなくなった特捜部」。同紙はこの川柳を「地検はとうとうルビコン川を渡った」と解説した。(石仏)
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