大分建設新聞

四方山

読書

2023年11月13日
 年齢を重ねるにつれて目が衰えてくる。今までよく見えていたものが見えにくくなり、世の中が次第にぼんやりしてくる。まあ、今の世の中ははっきり見えると気分が悪くなるものの方が多いので、それはそれで結構なのだが、不自由を感じるのはやはり活字▼ここ数年、まともに読書をしたことがない。本の活字を数ページ追い掛けるだけで疲れてしまい、投げ出す。老化は目の体力も削り取る。近視の上に乱視、遠視(老眼)と三拍子そろった身に、本の小さな活字は裸眼ではほとんど読めない。ルーペを持つかルーペ型眼鏡を掛けるしかない。使っているのは、若い女性がお尻でドスンとやっても壊れない(というCM)眼鏡型ルーペである▼そんなある日、本棚に並ぶ遠い昔に買った文庫本の背表紙に目が止まった。英国のスパイ小説「針の目」。パラパラしているうちにルーペを掛け、昔の小さな活字にもかかわらず一気に読み始めた。ちょうど連休中で気が付けば昼から夕方、夜、深夜へ。400ページを超える長編だが、いつの間にか半分を超えていた▼第2次大戦で欧州戦争の勝敗を分けた連合軍のノルマンディー上陸作戦。この上陸地点を巡って騙し合いの情報が錯綜するなか、真実をつかんで出国しようとするドイツの敏腕スパイと、彼を必死に追う英国諜報機関BI5との息詰まる攻防に、久しぶりにわれを忘れた。この小説は映画にもなり記憶も鮮明だが、圧倒的に小説の方が面白い▼かくて3日の連休で長編小説を読み終えたときは、数十年ぶりに味わう満足感に浸った。やはり読書はいい。例え目は衰えても頼もしいルーペがある限り読書は可能だと分かった。テレビを見る時間があったら読書に向かえ!そう言い聞かせ「針の目」の日本版と言われる「エトロフ発緊急電」を開く。(石仏)
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