大分建設新聞

四方山

高齢化社会

2023年11月09日
 文壇の新人の登竜門として知られる芥川賞。1935(昭和10)年の創設だから90年近くの歴史を誇る。第1回の受賞者が石川達三(05~85)だった。社会派として知られ、実際に起きた汚職事件から政治腐敗の実態を描いた『金環蝕』や、人間のエゴイズムに迫った『青春の蹉跌』はともに映画化され、印象的なタイトル自体が流行語になった▼代表作の一つに『四十八歳の抵抗』がある。老境を迎えた主人公がその現実から逃れようと、若い女性との恋愛に挑もうとする姿がユーモラスに描かれる。主人公の設定は題名通り48歳である。作品の発表は、敗戦から11年後の56年。その時代、48歳で「老境」と見られていたことに驚かされる。当時の男性の平均寿命は63歳だった▼先ごろ、埼玉県内の郵便局で起きた人質立てこもり事件。逮捕されたのは86歳の男性だった。「抵抗」とばかりに、寄る年波への抗いなどでなく、逆恨みが原因だった。それにしてもバイクに乗りながら病院に向かって発砲するなど、凶悪すぎる▼2022年時点の平均寿命は、男性81・05歳、女性87・09歳。『四十八歳の抵抗』の時代に比べて20歳近く伸びた。超高齢化社会の進展につれて社会問題になっているのが犯罪者の高齢化だ。警察庁の集計(21年)によると、刑法犯の検挙者のうち、65歳以上の高齢者が占める割合は23・6%。1992年の2・7%に比べて、およそ30年で約10倍に跳ね上がった▼逮捕された男は一人暮らし。交友関係は皆無で地域では疎外されていたという。失うものはなく「無敵」だったのだろう。孤立した高齢者の姿が浮かび上がる。独居高齢者は672万人(2021年)に上る。特殊詐欺などの被害者として捉えられてきた高齢者だが、孤独をためこんだ者が時に暴走する時代の到来を告げているようだ。(熊)
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