大分建設新聞

四方山

2023年10月24日
 「雨ニモマケズ/風ニモマケズ…」。誰しもが口ずさめる日本の代表的な詩歌の一つであろう。いま風には「物価高ニモマケズ/増税ニモマケズ」と読み替えたくもなるが、労を惜しまず、自身への評価よりも、他者のために尽くすという内容は、今も多くの人の心を捉えている▼今年は作者の宮沢賢治(1896~1933)の没後90年に当たる。「雨ニモマケズ」は他界する2年前の作品とされる。中段に「東ニ病気ノコドモアレバ/行ッテ看病シテヤリ」と、自らが動いて隣人に尽くす姿が描かれる。だが、実際の賢治はすでに病床に伏せていた。それを思うと悲しい▼詩はこんな印象的な言葉で締めくくられる。「ホメラレモセズ/クニモサレズ/サウイフモノニ/ワタシハナリタイ」。かくありたいと思っても、なかなかそうはなれない現実。だが「ワタシハナリタイ」という決意表明の一語がエールのように響く。東日本大震災の直後、俳優の渡辺謙さんがこの詩を朗読する映像を流し反響を呼んだゆえんであろう▼スケールの大きい歌唱で知られたシンガーソングライターの谷村新司さんが亡くなった。74歳だった。「アリス」時代の「チャンピオン」などの楽曲も忘れがたいが、ソロとして手がけた「昴」は発表から40年以上がたつというのに今も歌い継がれている。印象的なのは「名も無き星たちよ/せめて鮮やかに」の一節。賢治の詩と同様、励ましの言葉として胸に届く▼音楽だけでなく、記憶に残る言葉も残した。読売新聞10月17日付紙面は、谷村さんのこんな発言を「至言」として紹介した。「当たり前だと思っている日常が奇跡の連続だと気づいたら、全てに喜びを感じることができる」。なるほど深い。戒名は「天昴院音薫法楽日新居士」。あの一字が盛り込まれた。さらば、昴よ。(熊)
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