大分建設新聞

四方山

政治と道徳

2023年08月29日
 権力者の怨念は消えない。そんな警句を残したのは、イタリア・ルネサンス期に外交官として活躍したマキャベリ(1469~1527)である。代表作『君主論』は現実主義に根差した政治論であり、彼が「近代政治学の祖」と呼ばれるゆえんだ▼まさにその言葉を地で行くような「永田町劇場」である。1年以上、跡目争いが続いていた自民党最大派閥の安倍派。萩生田光一政調会長や西村康稔経済産業相ら「5人衆」と呼ばれる有力者を軸に「常任幹事会」を新設し、集団指導体制で派閥運営していくという。だが、常任幹事会の人選名簿に「会長代理」の任にあった下村博文会長代理の名前はなかった▼知名度の高いベテランがどうして排除されたのか。安倍派に影響力を保持し続けている森喜朗元首相の強い意向が働いたという。2人の関係について、朝日新聞8月25日付ネット記事は「折り合いが悪く」と、まるで痴話げんかの類いのような書き方である▼根っこをたどれば、下村氏が文部科学相だった2015年、森氏を招いて会議を招集しながら、下村氏がすぐに退席してしまったことに「無礼だ」と激怒したのがことの始まりらしい。元宰相としてのプライドが傷つけられたのか。8年たっても怨念は消えていなかった。その森氏が首相在任中、信頼を寄せていた外国の指導者がロシアのプーチン大統領だった▼プーチン氏の元側近、プリゴジン氏が乗機の墜落で死亡した。6月に反旗を翻したものの、ほどなく鎮圧された。墜落の原因は不明だが、死亡の確認後、プーチン氏が述べた「プリゴジン氏は深刻な過ちをいくつか犯した」という言葉は意味深である。「裏切り者は許さない!」という警告にも聞こえる。「政治は道徳とは無縁である」。マキャベリの残酷な言葉は今も生きている。(熊)
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