大分建設新聞

四方山

杜撰

2023年08月01日
 「人はみな望む答えだけを聞けるまで尋ね続けてしまうものだから…」。歌姫、中島みゆきさんの『永遠の嘘をついてくれ』の一節である。なるほどと思う。人間の悲しい性であろう。一個人の話であれば、自己責任であり社会への影響はない。けれども、国などの行政機関が「望む答えだけ」を求めていたら、待ち構えるのは悲劇である▼日本海軍が惨敗し太平洋戦争の転換点となった1942年のミッドウェー海戦。虎の子の空母4隻を一度の海戦で失った。作戦立案に向けて海軍は大掛かりな図上演習を行った。時間の経過につれて、自軍の機動部隊に大損害が出た。旗艦の空母「赤城」にいたっては魚雷9発を受けて沈没するという、現実の海戦と同じ流れだった▼演習の途中で「待った」を掛けた男がいた。敗戦の日、大分市の大分基地から飛び立った「最後の特攻隊」を指揮したことで知られる宇垣纒中将だった。図上演習当時は連合艦隊参謀長で、作戦部門のトップだった。赤城が受けた魚雷9発を3発に変えるなど「望む答え」が出るよう仕向けた。つまりは負けるべくして負けた海戦だった▼それと同じような希望的観測で計画されたのではあるまいか。2025年大阪・関西万博を巡る運営機関、日本国際博覧会協会の醜態である。153の国・地域が参加を表明しているというが、2年後に迫っている中、海外パビリオンの建設申請はいまだゼロだという▼「間に合うのか」という声も上がる。着工となっても工期の問題が出てくる。しわ寄せは建設を担う業者に押し寄せる。「働き方改革」どころではない。博覧会テーマの「いのち輝く」の言葉が薄っぺらく響く。ミッドウェー海戦では数千の命が失われた。ずさんな計画のツケを負わされるのは行政府などでなく、私たち庶民である。(熊)
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