大分建設新聞

四方山

捏造

2023年07月13日
 戦前の官選知事の時代、1939年から第32代県知事を務めたのが纐纈弥三である。長い間、妙な癖が抜けきらなかったという。来客が手土産に持ってきた菓子などは、妻が食べ終わるのを見計らってはじめて、自身も手を付けた。毒が仕込まれているのを警戒しての習い性だった。内務官僚として警視庁特別警察課の課長を務めた▼特別高等警察―略して特高。思想警察として誕生したばかりの特高を率いて、当時非合法だった共産党を徹底して取り締まった。「特高の生みの親」とも評される。その特高の流れをくむのが今日の警察組織に置かれている「公安」部門である▼民主社会の中、さすがに思想警察の色彩は薄れたが、国際テロ組織、過激派、右翼などの動向に目を光らせ、時にスパイ事件の摘発に当たる。任務の特殊性から優秀な人材を集めており、自他共に認めるエリート集団である。同時に、活動は秘密主義で、結束力は強く別名「公安一家」とも呼ばれる▼ほころびが見えることなどなかった組織に異変が起きた。軍事転用に可能な機器を無許可で輸出したとして逮捕、起訴され、その後起訴が取り消された製造元企業(横浜市)の社長が起こした国家賠償訴訟。あろうことか現職の公安捜査官が「事件は捏造」と証言した。しかも警部補という幹部である。衝撃は公安部門だけに収まらない。警察組織がデッチ上げに手を染めていたとなれば、国民の警察への信頼は根底から揺らぐ▼冤罪を訴え再審開始が決まった確定死刑囚の袴田巌さんの事件が頭をよぎる。決定を下した東京高裁は、証拠の衣類について「捜査機関が捏造した可能性が極めて高い」とまで論じた。にも関わらず、検察側はこの期に及んでも、この衣類を巡って有罪立証するという。この国の「正義」の危機である。(熊)
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