大分建設新聞

四方山

世襲

2023年07月06日
 「これといふもわが親に孝行が尽くしたい、親大事、親大事と思い込んだ心が届き…」。歌舞伎三大名作の一つに数えられる「義経千本桜」の四段目「川連法眼館」の段で子狐が吐くセリフ。鼓の皮にされてしまった親狐恋しさに、鼓を携える義経一行を、家来の忠信に化けて追いかけてきた子狐はそう告白する。親子の情愛を訴えかける屈指の名場面として知られる▼その狐忠信を「お家の芸」として継承してきたのが歌舞伎界の四代目市川猿之助だった。歌舞伎界きっての実力派であり、清新なイメージもあってか、警視庁の防犯キャンペーンポスターにも登場していた。当たり役の狐忠信を意識してであろう。「親を想う気持ちが、詐欺を防ぐ」というコピーがあしらわれたポスターもあった▼その猿之助が母親への自殺幇助容疑で逮捕されたというのは、あまりに痛ましい。父親の四代目段四郎も納得の上で致死量を上回る睡眠薬をあおったということだが、その瞬間「親大事、親大事」の得意としたセリフは頭をよぎることはなかったのだろうか▼四代目ほど長きにわたって継がれているわけではないが、2021年の衆院選で議席を失った、政治家二代目の石原伸晃・元自民党幹事長が久しぶりに注目を集めている。記者会見を開き、次期衆院選には出馬しないと表明した。父親の石原慎太郎氏が他界し、石原ブランドの威光に陰りが見える中、政界引退かと思いきや、参院選に鞍替え出馬するという▼父親の悲願であった憲法改正に向けた意欲も語った。伸晃氏にとって政治家というのは「お家の仕事」らしい。伸晃氏といえば環境相当時、福島第1原子力発電所事故に伴う汚染土壌処理施設について、地元との協議に向けて「金目でしょう」と言い放った。「金目」の決断でないことを祈るばかりだ。(熊)
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