大分建設新聞

四方山

山からの贈り物

2023年06月30日
 筆者の地元は三方を低山に囲まれた里山地域だ。かつてはコメやミカン栽培が盛んだったが、耕作放棄地が目立つようになってから久しい。人家を離れた山の中腹にプールのように大きなため池が設置されたのは50年ほど昔のこと。雨が降れば満々と水を湛え、地中の配管を通して里の田んぼに水を送る。その周辺はユキノシタやカタヒバ、フジの花などの植物が観察でき、アオサギやカルガモなど野鳥の遊び場にもなっている▼ところが、この春、ため池は利用者減を理由に廃止。維持管理費がばかにならないのだ。最後の水が抜かれた後、雨水が底の方に溜まり、雑草がはびこっているのが見える。こうなると地元の数少ない田んぼは沢から川、川から用水路へと流れる水が頼り。田植えをする人の姿をいつまで目にできるだろうか▼県内には2118カ所のため池があり、地元のため池同様に老朽化が進んでいる。平成30年7月豪雨では、多くのため池が決壊し甚大な被害をもたらした。そのため、県は人的被害の出る恐れがある「防災重点農業用ため池」を指定し、改修や廃止工事を実施している。今年5月23日には、特に危険度の高い24カ所のため池の状況をリアルタイムで監視できるシステムが運用開始された▼地元のため池廃止の影響で、頭痛の種がもう一つ。共同墓地の水がストップしたのだ。そのため墓参りにペットボトルが欠かせない始末だ。地元で水道を引くにも資金がままならないという▼いつもの山歩きをする道は、沢に沿ったかと思うと遠ざかったりしながら登って行く。雨の翌日などは、沢の流れを耳にするだけで爽やかになり、足取りも軽くなる。とりわけ山腹にある滝の流れを遠望すると、山の豊かな贈り物を感じることができる。梅雨の盛り、安全安心な山歩きを楽しみたい。(コデ)
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