大分建設新聞

四方山

誤り

2023年06月08日
 「マクナマラの誤謬」という言葉を、NHKのドキュメンタリー番組で初めて知った。ロバート・マクナマラ。ベトナム戦争当時、米国防長官を務めた人物である。前職はフォード社の社長を務め、経営苦境にあった同社を救った。最新の統計学の手法を駆使し、経営に関わる事項を全て数値化し、データーのみを指標に経営の舵取りをした▼国防長官としても、同じ手法で軍を指揮した。データー上、ベトナムを打ちのめせるはずだったが、そうはならなかった。ベトナム人の愛国心、国際的な反戦運動など、数値化できないことを無視したためだった。「歩くコンピューター」と畏怖されるほどの天才でも、数値だけを信じたがゆえに、大局を見失った▼「マクナマラの誤謬」と同じようなことが、半世紀前の日本で人口問題を巡り起きていた。厚生省(現厚生労働省)の諮問機関、人口問題審議会は1974年、子どもは2人以上産まないことを提言した▼当時は人口爆発が最大の問題であり、人口増加が食料危機やエネルギー不足を招くと考えられた。国内トップの研究者がそろった同審議会は、さまざまな統計指標をもとに、進むべき道として「少子化」という結論を出した。メディアもこぞって報じ「このままでは食料、資源は枯渇する」とあおった。大家族は好ましくないとする思考が国民の意識に刷り込まれたと指摘される▼それから半世紀近く。今では少子化、人口減が国難として日本の将来に暗い影を落とす。このほど発表された人口動態統計によると、2022年に生まれた子どもは77万747人で、統計を取り始めた1899年以降で最少となり、初めて80万人台を切った。半世紀前の議論が今日の少子化問題の根っこがあると言えるかもしれない。人間とは、誤る生き物らしい。(熊)
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