大分建設新聞

四方山

うらみ

2023年06月01日
 西洋音楽を日本の土壌に根付かせようとした作曲家の滝廉太郎(1879~1903年)。没後120年を記念する企画展が、少年時代を過ごした竹田市の歴史文化館・由学館で開かれている。目玉は、亡くなる4カ月前に完成させたピアノ曲「憾」の楽譜だ。「憾」と書いて「うらみ」と読むという。ただならぬ気配が漂う▼享年23。当時は不治の病とされた結核に倒れた。「うらみ」といっても、「遺憾」「心残り」の意味だとされる。ドイツ留学から帰朝し、これからという時に、大分市の実家で死の床に就かねばならなかった滝の心中を思えば、その無念は察するに余りある▼夭折もさることながら、死後にそれ以上の悲劇が起きる。滝がドイツから持ち帰った楽譜などは、感染の恐れがあるという理由で、当時の文部省の命令で焼却処分されたという。心血を注いだ作品もあったことだろう。天上の滝の心中を思えば、それこそ「恨み」を抱いたのではあるまいか▼重大少年事件や憲法問題を扱った民事事件の記録が廃棄されていた問題で、最高裁は「国民の皆さまに謝罪する」と初めて頭を下げた。問題発覚から半年も経過し、関係する裁判官が処分されたという話は聞かない。裁判記録は後世に伝える意味でも国民共有の財産である。オウム真理教の解散命令に伴う民事裁判の記録まで破棄されていた。いま問題になっている宗教団体への対応はどうなるのだろうか▼県内では2008年に剣道部の練習中に、熱中症で死亡した高校生の遺族が県などに損害賠償を求めて勝訴した裁判記録が廃棄されていた。記録には両親が懸命に集めた同級生らの証言が含まれている。取材に応じた両親は「しょうがないで済ませるのか」と嘆いた。2度命を奪われたようなものだろう。2度目は国によって、である。(熊)
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