大分建設新聞

四方山

社会の山守

2023年04月27日
 新緑の便りとともに、紫紅色の花をつけるツツジ。中でも、くじゅう連山の一角を占める平治岳のミヤマキリシマと呼ばれる品種の群生地は別格という。5月半ばともなると、斜面一面がピンク色に。名前の由来となった本家、霧島よりも壮観とも評される。命名者は朝のNHK連続テレビ小説の主人公、牧野富太郎である▼美しい景観は、それを守る人たちの汗で維持されていることを弊紙記事で知った。九州電力大分支店をはじめボランティアが、生育の支障となる不要な芽を摘み取る「芽かき」作業を行ったことを報じる記事だった。自然が自然のまま守られるのでなく、守るための不断の努力が必要であることを改めて教えられた▼平治岳から東南に約70㌔。宮崎県延岡市もミヤマキリシマの自生地がある。そこに「無鹿」と書いて「むしか」と読むいっぷう変わった地名がある。この地こそ、豊後の太守、大友宗麟が平和な理想の地を築こうとした夢の跡という。遠藤周作さんの作品『無鹿』に詳しい▼ある時、宗麟は宣教師の奏でる楽器の調べに心の安息を覚え、聞きほれた。「何というか」と尋ねる宗麟に、宣教師は音楽の意味で「ムシカです」と答えた。ミュージックの語源である。感銘した宗麟は延岡の地に、平和の理想郷を築こうとする。国の名は「ムシカ」。しかし、島津の大軍の前に夢はついえる。理想を追い求めるあまり、宗麟の守りは余りに貧弱だった▼理想が、厳しい現実の前に、いかに無力であるかを語っているようでもある。それだけではない。平治岳のツツジの山守と同様、何ごとかを守るには不断の努力が必要なのだろう。統一地方選が終わり、地方自治を担う顔ぶれが出揃った。私たちも議員の仕事ぶりを日頃から点検せねばならない。われらもまた、社会の山守である。(熊)
取材依頼はこちら
環境測定センター
arrow_drop_up
TOP