大分建設新聞

四方山

花見

2023年04月07日
 「桜の木の下には死体が埋まっている。だから、桜はあんなになまめかしいほど美しいんだよ」。梶井基次郎の「桜の木の下には」という小説の書き出しは、こんなふうに始まる▼美しいサクラの季節はほんとうに短い。一年のうち花が咲くのはわずか十日ほど。開花、満開、散華とあっという間にうす紅色の季節は終わる。そこが日本人の感性に合うのか、サクラの季節はメディアを筆頭に日本全国で花酔い気分が拡散する。不思議な気もするが、外国にはサクラを愛でる風習というものがほとんどないと聞く▼米国ではワシントンで、韓国でもサクラを鑑賞する人が増えているそうだが、車座になって宴会騒ぎをするのはわが国だけ。それも列島のここかしこで呑んで歌い、踊る光景はまさに花酔い民族の面目躍如の感ありである。もっとも最近は「桜を見る会」なるもので花風情とはほど遠い政治的どんちゃん騒ぎなどもあっていささか白けた記憶もあったが…▼満開の臼杵城公園にのぼり家族と弁当を広げ、一献のひとときを楽しんだ。はるか昔、大友宗麟が同じ広場を歩き、臼杵藩主の稲葉家の殿様、奥方、家臣たちがサクラを愛でた、というのは事実でなく、サクラの木を植えたのは明治になってから。政府の廃城令で荒れ果てた古城を整備するためサクラの公園にしようと臼杵の人々が汗を流した▼ところで冒頭の「死体」の話。文学者の感性に思えるが、ある生物学者が話す。「昔は日本も土葬が一般的で、サクラの木の近くにも遺体を埋葬していた。人体にはカルシウムやリン、亜鉛、鉄分などのミネラルがたくさん含まれていて、それらがサクラの木の根から幹、枝葉、花に流れるのは自然な話」。だからこそ、なまめかしいほど美しい花が咲くのだ。「でも近年は火葬になって昔ほど美しいサクラは咲きにくい」とも。作家のため息が聞こえる。(あ)
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