大分建設新聞

四方山

土光さん

2023年03月30日
 「目刺しの土光さん」と呼ばれた財界人がいた。1980年代「増税なき財政再建」を掲げ行政改革の旗振り役を務めた土光敏夫氏(1896~1988)である。石川島播磨重工、東芝の社長を歴任し、経団連会長を務めた。不可能とされた国鉄などの民営化を断行できたのは、多分に国民から「さん」付けで呼ばれた人柄にあった▼中でも広く知られたのが質素な生活ぶりだった。食卓に並ぶのは目刺し。功成り名遂げた大人物してはつつましやかだった。月々の報酬のうち10万円を除いた残りは、全て私学振興関係の財団などに寄託されていたという。そうした「人間力」が国民から支持された。偉業の影にちっぽけな目刺しあり、である▼周知のように目刺しはイワシ類の干物である。そのイワシが大豊漁の一方で、サバが記録的な不漁と報じられている。その影響でサバ缶の品薄状態が続く。イワシの大群がサバの群れを散り散りにさせているという説もあるが、サバの漁場で知られる青森県の漁獲量でみると、昨年は過去5年平均の15%まで激減している▼異常気象や、中国などの他国の乱獲が指摘される中、ショッキングな記事が『東洋経済オンライン』に掲載された。筆者は水産会社社員の片野歩氏。2021年に収獲されたサバ類の46%が養殖エサに使われているという。エサに回されるのは、食用に適さない幼魚である。幼魚が減れば食用の水揚げ量が減るのは自明の理。日本のずさんな資源管理の実情を静かに告発している▼そうしたなか、毎日新聞3月18日付け紙面は、これまでに少なくとも7783万回分の新型コロナウイルスワクチンが使用されず廃棄されたと報じた。2120億円相当に達する。これもずさんのそしりを免れ得ないだろう。「目刺しの土光さん」の心中いかばかりか。(熊)
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