大分建設新聞

四方山

末は博士か大臣か

2023年03月27日
 宇佐市で「九大生体解剖事件」に関する東野利夫氏(医師・小説家)の資料を拝見することができた。太平洋戦争末期、撃墜されたB―29の搭乗員が九州大学医学部の実験手術により殺害された資料である。アメリカ公文書館所蔵の公判記録や関係者から聞き取った資料と、そこから生まれた東野氏の書籍、論文、講演の原稿など貴重な資料で、精力的に事実を追った足跡を感じた。適切に保存して後世につないでほしいと思う▼一方で、裁判記録の廃棄が起きていたことが先般報道された。日本の裁判所では保管期間が過ぎたら捨てることになっており、例外的に保存するものは特別保存の規則なので、この規則が的確に生かされていなければ担当者もどうしようもない仕組みだ▼今回宇佐市の記者クラブ向けに公開された資料もごく一部という。言うのは簡単だが、保存するにはスペースを確保する必要があるわけで、公的機関であれば予算の確保も必要になる。民間企業だと、スペースも検索時間もコストなので合理的にルールが決まっていくが、公的機関ならではの困難も予想できる▼しかし保存することが目的ではない。目的は公開することであり、容易に閲覧できることだ。利用されなければ価値を承継できない。昨年、国立公文書館に鉄道150年の資料を見に行った際に、昭和16年の太平洋戦争宣戦の詔書を見ることができた。ずらりと並んだ大臣の直筆による署名に歴史の重みを感じた▼文書の原本と大臣直筆の署名、この組合せをデジタル技術を用いて信頼性高く保存することをDX推進で実現してほしい。自分の携わった仕事の記録が歴史になることこそ大臣の価値だ。もはや死語だが、大臣に威厳があった時代には、子どもが将来を目指した言葉として「末は博士か大臣か」とよく耳にしたものだ。(リュウ)
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