松本零士
2023年03月03日
日本語にすると空想科学物語とでもいうのか。数々のSF作品で知られる福岡県出身の漫画家・松本零士さんが85歳で亡くなった。「銀河鉄道999」など活躍する主人公らに心奪われた人は多いだろう▼ロマン溢れる発想の源は頭に湧き上がるイメージだそうで、それを見てもらえたらもっと素晴らしい世界が広がっていると、表現しきれないもどかしさも語った。作中の美しい空の景色は、子ども時代を過ごした心の中にある北九州・小倉の空の色と聞いたことがある。「子どもには無限の未来が広がっている」。目線の先にはいつも漫画で夢踊る子どもたちがいた▼「宇宙戦艦ヤマト」は、撃沈された戦艦大和を宇宙戦艦によみがえらせ、放射能で汚染された地球を浄化する機械を求め、万難を排し大マゼラン星雲へ向かうストーリーで一大ブームをつくった。ヤマトはワープ航法で光の速度を飛び越えた▼「戦場マンガシリーズ」では戦争の悲惨さを描き続けた。「人は死ぬために生まれたわけではない」。教官として若者を特攻に送り出したことに苦悩した父の姿が創作の原点だ。厳しい環境の宇宙では力を合わせなければ生き抜けない。「戦争などしている時ではない」との思考が松本さんらしい▼一方、巨大な星をも破壊してしまう「波動砲」でなぎ倒し、強大な敵に一隻で戦いを挑むヤマトの姿に特攻もイメージさせた。著作権をめぐりプロデューサーの故・西崎義展氏と訴訟に発展するなど実社会では苦悩もあった▼豊かな科学知識に夢というスパイスをちりばめた作品には、どんな難題も乗り越えてみせる人の底力がみなぎっていた。キャラクターを描いた北九州モノレールが走り、小倉駅前ではメーテルや鉄郎、ハーロックの像が「宇宙の海」に帰った松本さんに代わり人々を温かく見つめている。(秀)