大分建設新聞

四方山

中止は失敗

2023年02月24日
 種子島宇宙センターの発射台に据えられた大型ロケット。17日午前10時40分、轟音とともに、メインエンジンから白煙がもくもくと上がる。ところが、全長約60㍍の「H3」ロケット初号機の巨体は微動だにしない。空しく煙が漂うだけだった。すでに公表されているように、補助ロケットの不具合が原因だった▼誰がどう見ても「失敗」である。科学行政のトップである永岡桂子文部科学相もその直後、「失敗は成功のもと」と口を滑らせたほど。ところが、JAXA(宇宙航空研究開発機構)の担当者は、「打ち上げる前に取りやめているので、今回は失敗ではない」と強弁した。打ち上がらなかったこと自体、失敗であろう▼ところが驚いたことに、ほとんどのメディアが「打ち上げ直前『中止』」と報じた。中継映像を見ていた多くの人たちは違和感を覚えたのではないか。仮に同じ事態が他国で起きたとしたら、日本のメディアは何と報じるのか。現場にいた記者たちは目撃した事象より、JAXAの言い分を丸呑みした。戦時中、「全滅」を「玉砕」に言い換えるなど、国民に事実を隠ぺいしてきたことと同じである▼翌日、北朝鮮がICBMの打ち上げを成功させた。日本人としては心穏やかでない。「技術立国ニッポン」をけん引してきたトヨタ自動車。世界的な企業に育てた豊田章一郎さんが97歳で亡くなった。日米間の貿易摩擦など困難な時代にあって舵取りを担った▼技術者の出身。高級車「レクサス」の開発を主導した。名経営者として含蓄ある言葉を残している。「改善に終わりなし」「慢心あれば滅びが始まる」。経営の指針に「変革・創造・信頼」を掲げた。根っこにあったのは、「米国に勝つ」という負けん気だった。自信を失いつつある、私たちへの「喝!」として心に刻みたい。(熊)
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