大分建設新聞

四方山

先生

2022年12月01日
 議員秘書の第一の仕事は、名前を覚えることだと聞いた。事務所には、議員、地元からの陳情者、官僚、マスコミなどさまざまな客が引きも切らずに訪れる。よく名前を覚えられるものだと感心してしまう。あるベテラン秘書に、名前を覚える秘訣はあるのかと尋ねると「そんなコツがあれば、こっちが教えてもらいたいくらい」とはぐらかされた▼けれども、こんなことを教えてくれた。名前を思い出せなくなった時の対応策だ。「とりあえず『先生』と言う。怒る人はいない。議員でなければ、笑いながら『勘弁してくださいよ。〇〇ですよ』と名前を言ってくれるしね。まあ『先生』と言っておけば間違いない」。なるほどと感心したものだ▼「先生」とは「学徳の優れた人」が本義である。一般的には、専門的な資格を持った教師、医師らのほか、作家、芸術家らの尊称である。けれども、政治家は議員になった瞬間、先生と呼ばれる。俗に「先生と言われるほどの馬鹿でなし」と言われる。先生と呼ばれて、いい気になっている政治家を皮肉った言葉とされる▼さながらこの先生もそうだったと見受けられる。歌手から日本維新の会の参院議員に転身した中条きよし氏である。あろうことか、所属の委員会で「新曲が出ております。お聞きになりたい方はお買い求め下さい」とPRした。品位を重んじる国会においては前代未聞の発言だった▼本人は「宣伝のつもりはない」と釈明したが、同氏のヒット曲になぞれば、「うそ」ではと突っ込みたくなる。先生と呼ばれて舞い上がってしまったのか。だが、政界を見渡せば、勘違いしているのは同氏だけでない。「広辞苑」に「先生」の意味としてこんな解説があった。「からかって呼ぶ称」。なるほど、と合点してしまうのが悲しい。(熊)
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