大分建設新聞

四方山

仮面の英雄

2022年11月08日
 スポーツ紙風に言えば「キムタク信長見参」といったところであろうか。俳優の木村拓哉さんが織田信長に扮して、信長ゆかりのまち、岐阜市をパレードしたところ、たいへんな賑わいだったという。約40万人の同市の人口をはるかに超える観光客が押し寄せた。所属するジャニーズ事務所は脱退者が相次ぐなど、ぐらついているようだが、キムタク人気は不滅のよう▼奇しくも木村さんの年齢は、織田信長の享年とされる49歳。来年公開の映画で信長を演じるにあたり「木村家と織田家の家紋が同じで特別な親近感がある」などと話し、信長には相当思い入れがあるよう。志半ばで倒れたとはいえ、戦国時代に終止符を打とうとした一代の英雄である。いまも人気は高い▼だが、臆病なせいか、語り継がれる残虐な逸話に、少々怖気づく。とりわけ1547年の越前(福井県)一向一揆を巡る戦いはむごい。鉢伏城攻めでは、城主の「我が命と引き換えに城兵と領民の命は救って欲しい」という申し出を一度は受け入れながら、いざ城に乗り込むと、ことごとく命を奪った。その数は1万2000人を超えたという▼世界的な大富豪で、最も野心的な起業家と言われるイーロン・マスク氏。先ごろ6・5兆円で米ツイッター社を買収した。当初は抵抗していたツイッター社の経営陣も、最終局面ではマスク氏になびいた格好となった。ところが乗り込んだマスク氏は9人の全取締役を解任したばかりか、全従業員の半数に当たる3700人を解雇した▼笑顔の似合うカリスマ経営者のマスクの下に隠れた素顔は、数字だけの合理主義の権化なのだろう。米国に倣えとばかり、各種の規制緩和を推し進める日本だが、目指す先にあるのがこうした弱肉強食の論理に基づく経済社会だとしたら空恐ろしくもなる。(熊)
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