大分建設新聞

四方山

公共

2022年10月28日
手術場面の彫刻作品は、全国的にも珍しい。大分市の遊歩公園に建つ「西洋医学発祥記念像」。ポルトガルの青年医師アルメイダが日本人の助手とともに、足を痛めた患者の外科手術を今まさにせんとする緊張の瞬間である。時は戦国時代の1557年、この地に西洋医学の知見に基づく洋式病院が初めて開設された▼医学校も併設され、アルメイダは惜しみなく無償で知識を伝授した。医学の先進地としての素地がこの時、生まれたのだろう。英国人医師のジェンナー(1749~1823年)が開発した天然痘ワクチン「牛痘法」による種痘が日本で初めて佐賀藩で行われた1849年には、中津藩でも実施された▼佐賀藩と比べると、石高ではわずか4分の1ほどである。にもかかわらず、中津藩が先端医療に挑めたのは、アルメイダの遺伝子が受け継がれていたからであろう。種痘は領民に無償で行われたという。「公共」という言葉はなくても、理念が定着していたと思うと、感慨深い▼ジェンナーもまた、すでに特許の考えが定着していた西欧社会にあって、あえて特許を取得しなかった。高価格化を招き、それでは庶民は救われない、と考えたからだ。人々は牛痘を「ジェンナーの贈り物」と呼んだ。英国人だけでなく人類は、天然痘の恐怖からこうして解放された▼新型コロナの治療薬「アビガン」の開発が取りやめとなった。元々は新型インフルエンザ用の抗ウイルス薬だったが、安倍晋三元首相が2020年、コロナ治療薬への転用に期待を寄せたことで、にわかに注目された。未承認にもかかわらず、政府は「備蓄用」として174億円を投じた。実現性を疑う声も上がったが、「国産治療薬」の掛け声の前に封殺された。「公共」ではなく、国の「体面」を優先させた末の迷走劇だった。(熊)
取材依頼はこちら
フォトkンテスト
環境測定センター
arrow_drop_up
TOP