大分建設新聞

四方山

弱いものいじめ

2022年10月25日
  「先生。弱いもの いぢめてはいけません」。追い込まれ、切羽詰まったような感情がにじむ。没後74年を経ていまも読み継がれている太宰治が、文学上の師匠、佐藤春夫に宛てた手紙の一文である。共同通信が特ダネとして報じた。消印は1936年10月7日。佐藤を怒らせた太宰が、許してほしいという嘆願の内容という▼「弱いもの」いじめと言ってしまうと、かえって佐藤の怒りを買ってしまうのではと、余計な心配もしてしまうが、太宰は大真面目である。それだけに人間の弱さがさらけ出され、悲壮でもある。似たような嘆きが東欧からも聞こえてくる。野蛮な侵略戦争を仕掛けられたウクライナはもちろん、当のロシアからもである▼苦戦が伝えられるロシアでは、事実上の徴兵令が発令された。装備は不完全、訓練もないまま砲弾の飛び交う最前線に送られる…という話が飛び交い、若者に動揺が走っているという。しかも政府要人の子弟には抜け道があるとされ、不公平な徴兵に、国民の間には不満が渦巻いているとも報じられる▼旧ソ連時代には「督戦隊」と呼ばれる部隊があった。後方から自軍を監視し、逃げてくる将兵には容赦なく発砲し、最前線に追い立てるのが任務。野蛮な国柄を思えば、今も督戦隊のような部隊はあるかもしれぬ▼日本でも嘆きの声が聞こえる。東京商工リサーチの21日現在の集計では、コロナが原因の経営破綻(負債1000万円以上)は4301件で、すでに昨年1年間の1718件の2・5倍に達した。コロナ関連融資の返済が本格化し、資金調達ができず事業継続を断念するケースが急増しているという。物価高騰に歴史的円安が拍車をかける。異常な状況下で、一律に返済を求めるのは、無慈悲な督戦隊である。岸田さん、弱いものいじめはいけません。(熊)
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