大分建設新聞

四方山

心のピント

2022年10月19日
 先輩記者に、写真家・篠山紀信さんの言葉として「写真には心のピントがある」という話を聞いたことがある。下手なカメラマンほどピントがああだ、露出がどうだと言うのだそうだ。巨匠にはそんな理屈を超えた心に訴えるピントがあるという▼篠山さんは、いわずと知れた日本を代表する写真家だ。刺激的なアングルで女性アイドルを写した「激写」シリーズでも知られる。歌舞伎役者・坂東玉三郎さんを撮った妖艶な作品や、女優の宮沢りえさんの裸体を撮った「サンタフェ」は有名だ。水着姿で寝そべる山口百恵さんをとらえた一枚は、10代とは思えない百恵さんの色気が感じられ心に深く刻まれた。2016年に大分市美術館であった「篠山紀信展 写真力」でも展示されたので、見た人は多いだろう▼人気・実力ともに二分するアラーキーこと荒木経惟さんとは「デスマスク論争」を繰り広げた。ひつぎに眠る最愛の妻を写真集に載せた荒木さんに対し、篠山さんが疑問を呈した。誰もが避けられない人の死を表現者がどう扱うかは難しい問題。方法論は違うが、日本ではこの二人を超える知名度の高い写真家は、今もまだ出ていないのではないか▼篠山さんは東京都内の霊園や公道でヌードを撮影したとして、公然わいせつの容疑で書類送検されたことがある。「真摯に教訓として受け止め、さらなる新しい表現に挑みたい」とコメントした。街の中で撮影に挑めるのも平和あってこそだ▼ウクライナでは今も、ロシア軍の大規模な攻撃にさらされ、先日も首都キーウを含む複数の都市で80人以上の市民が死傷したとの報道があった。プーチン大統領の心のピントが焦点を結ぶ日はくるのか。記者として筆のピントは甘いかもしれないが、心のピントだけはできるだけ曇らせぬよう心したい。(秀)
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