大分建設新聞

四方山

慈雨

2022年10月14日
 演歌の大御所と言えば、この人をおいて思いつかない。芸道60周年を迎えた北島三郎さんである。サブちゃんの愛称で知られ、御年86歳。NHK紅白歌合戦出場回数は51回と、男性歌手のトップ。大ヒットしながら紅白の舞台では封印されている楽曲がある。『兄弟仁義』がそれだ▼「♪親の血をひく兄弟よりも~」。こぶしをきかせた歌声はこれぞ演歌だが、歌詞が任侠を美化しているとして、NGになったとか。とはいえ、このところ「兄弟は他人の始まり」という、人間の悲しい性をうたっているように響く。東京五輪汚職で逮捕、起訴された出版大手KADOKAWAを率いた角川歴彦被告(79)の報道が続いているせいかもしれぬ▼兄は、同社前身の角川書店を率いて斬新な企画で「風雲児」と呼ばれた角川春樹氏(80)。社長当時の春樹氏が1992年、副社長の歴彦被告を追放したかと思えば、その翌年、春樹氏が麻薬事件で逮捕されると、社長として返り咲いた歴彦氏は春樹氏を放逐する。骨肉の争いである▼歴史小説の名手、葉室麟さんは長編『霖雨』で、幕末に日田で私塾「咸宜園」を開いた教育者の広瀬淡窓と、豪商で社会事業家でもあった久兵衛の兄弟を描いた。互いの持ち場でなすべきことを知り、筋を通す兄弟の姿は美しい。印象的な言葉が繰り返し出てくる。「慈雨」である▼急激な変革運動を炎に例え、淡窓にこう言わせている。「炎では飢えに苦しむひとびとを救うことはできぬ。(略)求められるべきは炎を鎮め、田畑を潤し、稔りをもたらす慈雨ではないか」。久兵衛の子孫にあたる広瀬勝貞知事が勇退を表明した。「県民のため」と何度か口にした。慈雨たらんとしたのであろう。私たちの業界にも深い理解を寄せていただいた。お疲れさまでした、とつづりたい。(熊)
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