大分建設新聞

四方山

感動

2022年10月04日
 「一杯のかけそば」という童話を覚えておられるだろか。舞台は札幌の蕎麦店。大晦日の晩になると、決まって訪れる母親と幼い2人の兄弟がいた。注文するのは一杯のかけそばだけ。それを3人で分け合って食べるのが常だった。3人を優しく見守る寡黙な店主らを軸に物語は進む▼発表されたのは、日本中がバブル経済に浮かれた1988年。飽食時代への警鐘かのように受け取られ、大反響を巻き起こし、映画化もされた。「実話をベースにした」というのがミソだった。ところが原作者の無軌道な生活が週刊誌などで報じられると、ブームは一気に終息した。いまでは「創作」というのが定説で、要は「つくられた感動」だった▼安倍晋三元首相の国葬で、友人代表として読み上げた菅義偉前首相の弔辞が素晴らしかったと賞賛されている。なかでも、安倍氏が読みかけだったという山縣有朋の評伝に言及し、山縣が盟友の伊藤博文を偲んで詠んだ「かたりあひて尽しゝ人は先立ちぬ今より後の世をいかにせむ」を引いて、「私自身の思い」と述べたくだりは、繰り返しメディアで取り上げられた▼だが「つくられた感動」とばかりの批判もある。1日付のニュースサイト「リテラ」は、同評伝について安倍氏自身は7年前に「読了した」とSNSに発信し、山縣の歌も安倍氏自ら使っていたこともあり、菅氏の弔辞のネタは「使い回し」と手厳しい▼不死身と思っていたアントニオ猪木さんが79歳で世を去った。亡くなる10日前に撮影された映像を見た。ベッドに横たわる衰弱した「燃える闘魂」の姿があった。「みんなに見てもらって弱い俺を…しょうがないじゃん」。振り絞る声が胸を打つ。まっすぐに最後まで戦い続ける姿に、本当の強さについて、教えてもらった気がする。ありがとう、猪木さん。(熊)
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